動作の速いヨサパーク
例示的なMSA案をシミュレーションした結果、ほとんどの労働者はMSA勘定に振込額のかなりの割合を残して退職を迎えることが示された。
そして退職時に少額の残高しか持たない労働者は、かなり少数であることもわかった。
また、このMSA案の資産運用をもし株で行えば、50%以上の労働者が労働期間を通じた振込総額に比較して300%以上にもなるMSA残高を獲得する。
そしてこの振込額比率が200%以下となるのは男子労働者の10%にすぎず、125%以下になるのは女子労働者の10%にすぎない。
もし資産運用を債券で行った場合には、この割合はかなり低くなる。
しかし、それでもこの割合が50%以下となるのは労働者の10%程度にすぎないのである。
したがって、MSAの導入に際して医療支出の持続性はそれほど問題にならないわけである。
ただし、このシミュレーションはMSA導入に対する個人の反応を考慮していない。
MSAの導入によって医療支出はおそらく低下すると思われるし、また、その結果として保険料も低下すると思われるが、その効果も考慮されていない。
4,000ドルを下回る医療支出部分が低下すると考えることは、それほど非合理ではないだろう。
フォーチュン誌上位500社に選ばれているほかの企業データを用いてEichner[1997]が推計した価格弾力性によれば、定額自己負担を下回る医療支出は約35%も減少すると考えられる。
高額医療が総医療費の大部分を占めることから考えて、総医療費の削減効果は、高額医療保険の定額自己負担分の大きさによって決まると言えよう。
もちろん、定額自己負担を超える医療支出も影響があると考えられる。
このようなMSAは、個人の生涯医療支出期待額の分散を高めることになり、「リスク」を増大させることになる。
しかし、この分散の増加は、MSAによって起こる貯蓄の増加によって評価することができるに違いない。
本質的に、すべての加入者はこれまでよりも退職用の資産を増加させることとなるだろう。
この貯蓄の増加分として定義できるリスクははっきりしないが、他人よりも多く貯蓄する者もいることだろう。
MSA案は雇用者の俸給の組み合わせ方、およびその水準を決定する際にも重要な意味を持っている。
2,000ドルのMSA振込額とそれに伴う医療保険の保険料減少の組み合わせは、依然として現行の医療保険にとっては「コスト」である。
しかし、「コストの増大」としてMSAをとらえるよりも「強制貯蓄」として見るほうが適切なのかもしれない。
大雑把な試算によると、企業が提供する現行の医療保険のコストは労働者1人当たり(配偶者と子供を含む)約1,400ドルである。
1方で、MSAによって個人行動が変わらないとすると、医療保険のコストは半分の約700ドルになると見込まれる。
MSAの振込額が2,000ドルなので、他の給付を1定とすると、MSAと医療保険をセットにした労働者の報酬の増加額は1,300ドルである。
MSAの残高から雇用者が医療支出分を支払うことで、会社の医療保険のコストが減少するため、労働者の医療支出は約700ドル増加する。
したがって、労働者の差し引きの便益は約600ドルとなる。
これまで、われわれはMSAによる税金への政策的意味合いを考慮してこなかった。
企業と労働者によって負担される新たなコストは、401(k)や同様の勘定に対して与えている優遇措置によって大幅に減少することになるだろう。
また、われわれは401(k)などの退職制度とMSAを組み合わせる可能性についても考慮してこなかった(多くの401(k)はその設立に当たって、他の年金給付の低下を伴っていない9))。
医療保険の保険料とMSAの振込額をもし退職金のように取り扱うならば、税金の控除対象となろう。
逆に、労働者の医療支出の自己負担額は、典型的には税控除の対象ではない。
さらに、われわれはさまざまな保険案の選択に際して厄介な伝染病ともいえる逆選択問題に対しても考慮してこなかった。
加えて、改革案の構造の少しの変化によって、各予測値が大きく変化することが考えられる。
たとえば、MSAの振込を年末に行うことにすれば、その年には医療支出用の基金が利用不可能となるので、退職時におけるMSAの残高が増大することになる。
また、もしMSAの振込額を2,000ドルの代わりに、たとえば1,000ドルにすれば、やはり様相はかなり変化することになる。
この感応度の分析は、税金を考慮に入れて、MSAが医療保険の総コストを上げないように決定することができることを示すものである。
401(k)と個人年金などの個人的退職金は、今や私的退職金をしのぐものとなっている。
そして、Poterba,VentiandWise[2000]で示されているように、現在までの傾向から見て、将来ますますこの傾向は高まるものと思われる。
とくに、雇用主によって設立される401(k)は将来拡大することだろう。
そしてこれらの制度は、個人の選択に大きな基礎を置くものであり、大きな自己責任を発生させる。
このことは確実に退職用の資産蓄積を増加させることになるだろう。
また、これらの制度に伴う市場リスクも個人のリスクを増大させることになる。
しかし、MSAのリスクと同様に、こうしたリスクも退職用資産の観点から評価できるに違いない。
多くの社会保険改革案は個人勘定の設立とさまざまな選択権を個人に置くことを示しており、そのことは個人の貯蓄と1国の貯蓄を増加させることになるだろう。
MSAにおける貯蓄勘定部分は同様な効果が期待できる。
また、MSAと401(k)を統合することも自然な発想である。
さらに、MSAは医療の供給側をより効率化させ、医療支出を減少させる見込みをもっている。
それは、各個人が自分の受ける医療行為をそのコストに見合うか判断できるかどうかにかかっている。
日本では公的年金と健康保険に関して、原則的には国民皆保険が実現するような制度がとられている。
健康保険の皆保険は、被用者保険(厚生年金、共済年金、政府管理健康保険、組合管理健康保険、共済組合など)による強制加入と、自営業者や無業者のための国民健康保険(地域別の保険)を組み合わせることによって達成されている)。
皆保険の制度があるため、個人が健康保険に加入しているかどうかは、その個人の就業状態とは直接的には関係ない。
1方、どのような形で健康保険に加入するかは個人の就業状態と密接な関連がある。
非正規労働者は被用者保険には加入しないかもしれない。
ここのうち、パートタイム労働者総合実態調査(1990年、1995年)の個票を用いた分析結果を報告した部分は、財団法人労働問題リサーチセンターの研究助成を得て行われる「若年失業研究会」の研究の1環として行われた成果の1部を引用したものである。
ここで述べられていることは私個人の見解を示したものである。
この論文が最初に発表されたのは、2000年1月のNBERJCERコンファレンスであったが、ここはその後の制度変更や政策論議を反映する形で1部加筆されている。
公的年金も類似のしくみで運営されている。
多くの大企業は厚生年金基金を持っている。
また、自営業者・農業従事者は国民年金に加入する。
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